2009年06月21日
「夜想曲集」
しっかり降る雨でしたが、ようやく小降りになってきました。
夜3時間ダブルス練習があるのでコート使えると良いのですが。
さて明日からはウインブルドンが始まります!ナダルがひざの
ケガで辞退したのが残念ですが・・。芝を得意とするフェデラーを
軸に、急成長している若手選手が挑んでかなり拮抗した試合
内容となると思います。また2週間、多くの熱戦を観ることが
できすごく楽しみです!
先週、カズオ・イシグロ最新刊「夜想曲集」を読みました。
これまでの長編のように大きなストーリーに巻き込まれる
ある種の快感はないものの、ある出来事ある日常の一瞬に
焦点を当て鋭利に切り取ってみせる短編ならではの迫力が
あり、読み応え十分でした。
副題どおり「音楽と夕暮れをめぐる」5つの短編から構成
された興味深い小話集なのですが、ショパンの夜想曲から
容易に想像される静かで物憂く内省的なものばかりではなく、
ユーモアやドタバタ劇などもあって一筋縄ではいきません。
しかしその通奏低音には、常に首尾よく収まることのない
私たち人の切ない生き様を、そっと優しく抱きとめる眼差しが
あるのだ、と思います。
例えば第一篇「老歌手」で、プロの歌手ガードナーが観光広場の
バンドでギターを弾く私に、演奏の秘密を伝授するこんな
くだりに目がとまります。
「突然、『一つ秘密を教えよう』とガードナーが言った。
『ちょっとした演奏のこつだ。プロからプロへの秘密伝授と
いうところだが、実際は単純なことだ。それはな、聴衆の
ことを何か知っておけ、ということだ。何でもいい。
今日の客は昨日とどう違うか、自分の心で納得できること
なら何でもいい。たとえば、ミルウォーキーにいるとする。
自分に問いかけるんだ。何が違う。ミルウォーキーの客と
昨夜のマディソンの客の違いは何だ。何も思いつかない?
だったら考えろ。思いつくまで考えろ。ミルウォーキー、
ミルウォーキー・・・。ミルウォーキーはいい豚肉を
産することで名高い。うん、これでいい。舞台にでたら、
それを使え。客には何も言う必要はない。ただ、歌うときに、
それを心にとどめておくことが重要なんだ。目の前に
すわる客は、うまい豚肉を食っている人々だ。豚肉に
関しては一家言ある・・・。わしの言うことがわかるかな。
そう思うことで、聴衆への手触りが生まれる。面と向かって
歌ってやれる誰かになる。それがわしの秘密だ。
プロからプロへ、これを伝授しよう。』」
「夜想曲集」カズオ・イシグロ著 早川書房
栄光や希望、夢や野心にあふれていたはずの私たちの未来を、
圧倒的な現実が無慈悲に刈り取り、過去へと収穫していく。
それでもなお、稀に訪れる率直な人との出会いや心震わせる
一回性の出来事は感動を呼び、瞳を閏わせる。
人生はまだまだ信じられるし美しさに満ちている。
そう思わせてくれる一冊でした。
夜3時間ダブルス練習があるのでコート使えると良いのですが。
さて明日からはウインブルドンが始まります!ナダルがひざの
ケガで辞退したのが残念ですが・・。芝を得意とするフェデラーを
軸に、急成長している若手選手が挑んでかなり拮抗した試合
内容となると思います。また2週間、多くの熱戦を観ることが
できすごく楽しみです!
先週、カズオ・イシグロ最新刊「夜想曲集」を読みました。
これまでの長編のように大きなストーリーに巻き込まれる
ある種の快感はないものの、ある出来事ある日常の一瞬に
焦点を当て鋭利に切り取ってみせる短編ならではの迫力が
あり、読み応え十分でした。
副題どおり「音楽と夕暮れをめぐる」5つの短編から構成
された興味深い小話集なのですが、ショパンの夜想曲から
容易に想像される静かで物憂く内省的なものばかりではなく、
ユーモアやドタバタ劇などもあって一筋縄ではいきません。
しかしその通奏低音には、常に首尾よく収まることのない
私たち人の切ない生き様を、そっと優しく抱きとめる眼差しが
あるのだ、と思います。
例えば第一篇「老歌手」で、プロの歌手ガードナーが観光広場の
バンドでギターを弾く私に、演奏の秘密を伝授するこんな
くだりに目がとまります。
「突然、『一つ秘密を教えよう』とガードナーが言った。
『ちょっとした演奏のこつだ。プロからプロへの秘密伝授と
いうところだが、実際は単純なことだ。それはな、聴衆の
ことを何か知っておけ、ということだ。何でもいい。
今日の客は昨日とどう違うか、自分の心で納得できること
なら何でもいい。たとえば、ミルウォーキーにいるとする。
自分に問いかけるんだ。何が違う。ミルウォーキーの客と
昨夜のマディソンの客の違いは何だ。何も思いつかない?
だったら考えろ。思いつくまで考えろ。ミルウォーキー、
ミルウォーキー・・・。ミルウォーキーはいい豚肉を
産することで名高い。うん、これでいい。舞台にでたら、
それを使え。客には何も言う必要はない。ただ、歌うときに、
それを心にとどめておくことが重要なんだ。目の前に
すわる客は、うまい豚肉を食っている人々だ。豚肉に
関しては一家言ある・・・。わしの言うことがわかるかな。
そう思うことで、聴衆への手触りが生まれる。面と向かって
歌ってやれる誰かになる。それがわしの秘密だ。
プロからプロへ、これを伝授しよう。』」
「夜想曲集」カズオ・イシグロ著 早川書房
栄光や希望、夢や野心にあふれていたはずの私たちの未来を、
圧倒的な現実が無慈悲に刈り取り、過去へと収穫していく。
それでもなお、稀に訪れる率直な人との出会いや心震わせる
一回性の出来事は感動を呼び、瞳を閏わせる。
人生はまだまだ信じられるし美しさに満ちている。
そう思わせてくれる一冊でした。